
いやぁ、やってくれるなぁ〜 一夜にして大変なことになっております。そのうち日本メディアも飛びついてくるでしょうが、当ブログをお読みいただいている方が心配されないよう、ポイントをお伝えしておきます。
まず、プリゴジンの一連の動きの初っ端に、「この注目を集めるイベントにはすべて、パニックを引き起こしロシア軍を批判する目的でフェイクが伴います」とワグネルのテレグラムに投稿があります。つまり、テレビドラマの「この物語はフィクションであり・・・」のような文句です。
そしてプリゴジンがまず行ったのが、ロシア連邦調査委員会へ、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀長を調査し刑事訴訟を起こすよう求めた声明文を送りました。「彼らは、ロシア国民の大量虐殺、数万人のロシア国民の殺害、ロシア領土の敵への譲渡の責任を負わなければなりません。さらに、この譲渡は、ロシア国民の殺害や大量虐殺と同様に、意図的なものです。ショイグは国家レベルで大量虐殺を行っています」
出典:https://t.me/orchestra_w/7396
続いて、次のような「状況」が、ワグネルのテレグラムで次々と語られました。
【我々の情報によれば、ショイグはロストフに来てゲラシモフと協力し、ワグネルを拘束する計画を策定している。建前はロシア国防省との契約の拒否である。】
【ワグネルのキャンプへのミサイル攻撃の報告がある(下の埋め込み動画)。現場からの情報によると、攻撃はロシア国防省の軍隊により行われた。】
【(下記の声明の後に)ショイグがロストフから逃亡した。我々の戦闘員を殺害するためにヘリコプターを飛ばした理由やミサイル攻撃を開始した理由を説明しないためだ。】
(ブログ埋め込み用:ロシア国防省より攻撃を受けたとプリゴジンが主張するワグネルのキャンプ) pic.twitter.com/fDq85BDCyX
— 原伸一・Shinichi Hara (@GyotokuShogi) June 24, 2023
さらに、ついにプリゴジンは、ショイグを武力的な目標に行動を起こすと理解できる以下の声明を発しました。
【民間軍事会社ワグネル司令官評議会は、国の軍事指導部によってもたらされる悪を阻止しなければならないという決定を下しました。
彼らは兵士の命を無視しています。彼らは「正義」という言葉を忘れてしまいましたが、私たちはそれを取り戻します。
今日私たちの仲間を破壊した者たち、何万、何万ものロシア兵士の命を破壊した者たちは罰せられるだろう。
私は呼びかけます、誰も抵抗しないでください。抵抗しようとする者は全員、危険とみなし、我々は途中の検問所も含めて直ちに破壊します。そして私たちの頭上に見える航空も同様です。
私は皆さんに、冷静さを保ち、挑発に屈せず、家に留まるようにお願いします。 理想的には、沿道の人々は外に出ないでください。
始めたことを終えたら、祖国を守るために前線に戻ります。
大統領権限、政府、内務省、ロスグ国家親衛隊、その他の省庁は従来通り業務を継続してください。
私たちはロシア兵を破壊する者たちに対処します。 そして私たちは最前線に戻ります。
軍隊の正義は回復されるだろう。 そしてその後はロシア全土に正義が与えられます。】
これに対する、ロシアの国家機関側の反応と対応:
・国防省はワグネルのキャンプへのミサイル攻撃を否定。
・法務省が、プリゴジンを外国代理人として登録。
・ロシア連邦検事総長が、武装反乱を組織しようとする者への刑事事件の開始をプーチン大統領に報告。12 年から 20 年の懲役が科せられる。
・国防省、FSB、内務省、ロシア衛兵は、武装反乱未遂に関連して国家元首の指示を受けて講じられた措置についてプーチン大統領に24時間体制で報告。
・FSBはワグネル戦闘員に対し、プリゴジンを拘束し、命令に従わない措置を講じるよう求めた。
・SNSのフコンタクテは検事総長室の決定に基づいてプリゴジンの投稿を封鎖。 「Yandex」は、「ワグネル」に関連する資料の一部もブロック。
そして、スロビキン将軍が、プリゴジンとワグネル兵士たちに、下の呼びかけを行いました。埋め込み動画の下に、ざっと概略日本語にします:
Суровикин призвал ЧВК "Вагнер" решить все проблемы мирным путем. Заместитель командующего объединенной группировкой российских войск в районе спецоперации отметил, что противник ждет обострения внутриполитической обстановки в РФ:https://t.co/HeAuNS4g71
— ТАСС (@tass_agency) June 23, 2023
Видео: Минобороны РФ pic.twitter.com/ejzqOKWpAQ
【ロシア連邦国防省のリーダーからの命令です。
我が軍への、
我らの指揮官たちへの、
我らの兵士たちへの、
我らの志願兵への。
任務を実行してください。自分の持ち場で、敵軍と戦ってください。
ワグネルのリーダー、 指揮官と戦闘員に呼びかけます。私たちはあなたたちと一緒に、困難な道を乗り越えてきました。一緒に戦い、リスクを負い、損失を被り、共に勝ちました。私たちは同じ血を持っており、戦士です。
それをやめるよう促します。
敵は我が国の内政状況が悪化するのをまさに待っています。この国にとり困難な時期に、敵の手に乗ってはなりません。手遅れになる前に、必要なこと、なすべきことは、選挙で選ばれたロシア連邦大統領の意志と命令に従い、部隊を停止させ恒久的な配備地点と集中地域に戻すことです。すべての問題は、ロシア国防省最高司令官の下で平和的手段によってのみ解決してください。】
しかし、プリゴジンは相変わらず。和解を考えません。
【これからロストフへ向かいます。私たちは続けます。最後まで行きます。】
【我々の隊列を攻撃するために、国防省参謀本部は航空機を飛ばした】
【ヘリコプターが民間輸送船団に向けて発砲したが、ワグネルの乗組員であるプリゴジンによって撃墜された。】
など、テレグラムに投稿しているんですが、Colonelcassadによれば、ロストフでは何も目撃されていないとのこと。また、サンクトべテルブルグのワグネルセンターもいたって平静で通常通りであるとメディアは報じています。
要するに、物理的に何かが起きたのは「ワグネル後方キャンプへの国防省による攻撃」とされているビデオだけで、その他は具体的には何も起きていません。
以下、完全に私の個人的な見解です。突拍子なく大外れするかもしれませんが、ご了承ください。
5月9日に以下の記事を書きました。プリゴジン自身も、映画制作/配給を行っているほどですから、押井守監督の作品を見ているのではないかと思います。
Hara Blog【ワグネル 戦闘映像のBGMに日本アニメ攻殻機動隊劇場版映画「イノセンス」の音楽を起用】
http://hara.livedoor.biz/archives/52331217.html
押井監督の作品で、軍事オタクは必ず見ている「パトレイバーthe Movie 2」という作品があります。東南アジアの某国へPKOで行った警官の柘植行人という人物が現地で戦闘に巻き込まれ(当時はカンボジアPKOに関する議論が盛んであった)、戦争の現実を知らない司令部の指示のせいで多くの部下を失い、その後姿を消します。数年後に日本に戻った柘植は、レインボーブリッジの爆破や自衛隊システムのハッキングによる架空の空中戦を繰り広げるなどにより日本中を恐怖に陥れ、首都圏に自衛隊を出動させるなど、さながら戦争状態を作り出すことに成功した。しかしながら彼には政治的なメッセージなど何もなく、平和ボケした日本人に「戦争」を体験させることそのものが目的なのでした。
今回のワグネル事変について、ここまで起きていることは、この映画ととても良く似ています。物理的に起きたことは、森林が一部荒らされた跡と小さな火災が映っている最初の動画だけ。その他はネット空間のみで、具体的には何も起きていません。しかしながら、ロシア国民には突然身近に戦争が迫ってきたような緊張感が走り、ロシア国防省の官僚組織についてプリゴジンが何を言っているのか耳を傾けざるを得ない「状況」が発生しています。それこそが、プリゴジンが意図したことだったとすれば、納得がいきます。
ちなみに映画では柘植行人は最後には逮捕されるのですが、プリゴジンも覚悟はしているでしょう。そして、プーチンがさらなる動員をかけやすくなる空気が醸成されるだろうと思います。それは、今後ハルキウなども視野に入れるならば必要なこと。
たぶん、押井守ファンの軍事オタクはみな「ああ、アレをやったんだな」と直感で閃いただろうと思います。多くのロシア国民には、彼の感覚からすれば、まだ「国を護るための戦争を自分たちがやっている」意識と覚悟が足りないのでしょう。


ワグネルによるバフムート攻略時から「一連」の規模が拡大している。今度は軍広報官でなく大統領を巻き込んだのだから、ひとたび経験した成功体験の影響は恐ろしい。