ルーマニア政府が、接種者が3割止まりでこれ以上は誰も接種をしないためワクチン接種会場をすべて閉鎖すると、SNSで拡散されています。(埋め込み動画はいちばん下)

ルーマニア


第一感としては、勇気をもらった気持ちになります。ルーマニアは1980年代にチャウシェスク大統領の独裁政権を民衆蜂起で倒した記憶が新しいので、民衆には「立ち上がれば、政治が変わる」という成功体験がありますし、政権には「民意に逆らうとヤバい」という危機感があるでしょう。あっぱれルーマニアと言いたいところです。

調べてみると、これが最初にSNSに上がったのは9月後半のようです。

ルーマニア9月ツイート

この、9月というのがどういう時期だったかと言えば、当時の内閣に不信任決議が成立してしまう10月5日の直前。政権への不満が高まったのはワクチンもあるでしょうが、貧困や長年続いてきている政治家の汚職。下はジェトロのHP。



同国では2017年にも汚職問題で国民の不満が募り、当時の首相が退陣に追い込まれています。ピーク時のデモ隊の人数が50万人だったというからスゴイですね。



という訳で、ワクチン接種政策が一時とん挫したのは、民意により政権が折れたというよりは、政権末期でガタガタだったからと見るほうが妥当のようです。11月にかけて政治的空白ができており、先ごろようやくルーマニア国民自由党が社会民主党の力を借りることにより連立政権が誕生しています。



上記JETRO記事にある通り左派色を強く反映させられた政権で、12月から当局はむしろワクチン接種政策を復活させています。皮肉なことに、死に体の汚職まみれ政権のほうがワクチン政策に関してはよかった。
下の記事にある写真は、キャンペーンのためにつくられたワクチン空ボトルのクリスマスツリー。気持ち悪いですね。



してやられたルーマニア事情に関する下の読売の記事が秀逸で、敵ながらアッパレ。「信仰上の理由」や「虚偽の情報」を同国における感染者増加の背景に置き、ルーマニアを賛辞する日本のネット発信者たちを巧みに潰しにきています。
「してやられたなぁ」



一部抜粋引用します:

【「神が守ってくれるからワクチンは接種しない。ワクチンには『悪魔』が入っている」。毎週礼拝に参加するマリン・シェルバンさん(58)はそう断言した。】

【東方正教会の信徒が多い国ではワクチン接種率が低い。ワクチン接種について、ルーマニア正教会は公式には否定していないが、大都市コンスタンツァの大主教は「毎日お祈りする人は救われる。ワクチン接種は勧めない」と公言している。】

【米ジョンズ・ホプキンス大の統計によると、10万人当たりの感染死者数はブルガリアが436人で世界で2番目、ルーマニアが302人で10番目に多く、上位10か国のうち6か国が東方正教会信徒が過半数の国だ。】

【虚偽情報の拡散も深刻だ。18日に訪れた南部スロボジアのワクチン接種会場は閑散としていた。「『死にたくないから打たない』『3世代先まで子供ができなくなる』など、あらゆるフェイクニュースが広がっている」。ラドゥ・アンドレア医師(40)はため息をついた。】

【熱心な正教会信徒で、反ワクチン運動で一躍有名になった男性(43)のブログには、「ワクチンは遺伝子を変える生物兵器だ」などと主張する投稿があふれている。男性は医療従事者だったが、11月、コロナに感染して死亡した。】

ちなみに上記の「10万人あたり感染死者数」は要注意ですね。たぶん、数字の出し方で色々と見え方が違うんだと思います。下はシンプルに死者数。確かに10月に高い山があり、メディアはここぞとばかりに「ほらみたことか」と失策を報じました。が、ワクチン接収率が10%くらいしか上がらないのに(従来は接種率3割だった。現在4割)、12月にかけてストンと落ちています。日本の第5波と同じ状況で、興味深いポイントです。ワクチン接種率との相関関係は、ないことが解ります。

ルーマニア死者数


という訳で、
・ルーマニア国民の多くが反ワクチンであることは事実。
・これには東方正教会の影響がある。
・マスコミはルーマニア国民の信仰心をカルト的に印象付け、同国の状況を引用するネット発信者たちを頭がおかしく見せようとしてきている。

ここら辺は念頭におきつつ。下はチェコ保険省が出している旅行者向けのCOVID危険度マップで、12月17日にアップデートされたもの。色が薄くなるほど安全ですが、右下の黒海に面したオレンジ色がルーマニア。ヨーロッパで最も安全な国ということになっています。

ヨーロッパCOVIDマップ