先日紹介した「伝説の真剣師 小池重明」に続き、これを読んで並べてみています。著者は同じく宮崎国夫さん。絶版になっていますね。手に入りにくくなる前に買っといてよかった。

放浪の真剣師―続修羅の棋士
宮崎 国夫
毎日コミュニケーションズ
2000-09


「闇太郎」という主人公はおそらく著者の宮崎さんなのでしょう。真剣の世界で修行をする彼の目から見た実在の真剣師たちの姿が描かれています。主に大田学さんを中心に。

太田学さんと聞いてもピンとこないですよね(笑)。マナカナがデビューしたNHK連ドラ『ふたりっ子』に出てくる「銀じい」のモデルといえば、覚えている人はイメージが沸きますか。

下図は太田学さん(先手)とアマ名人坪井作道さん(後手)の対戦から。
128名のツワモノたちによる賞金トーナメントの準決勝で、時間は午前3時。注釈に「さすがの両者も疲労困憊だ。終盤、大田は簡単な詰みを逃す」と書かれてあったので、注意深く「ここかな?ここかな?」と探しながら並べてみました。あった、ここだ。

中級クラスの子でも、がんばれば発見できそう。5手詰ですね。

大田ー坪井




▲5二飛△3三玉▲4三金△同銀▲4五桂までの5手詰です。
2手目△3一玉は▲4二金から駒あまり。

実戦では大田学さんは上図で▲5五金と指して詰みを逃してしまったのですが、この手にもちゃんと根拠があると思います。強い人がどういう風に考えて指すのか、勉強になります。

「勝ちに行く」より「負けない」手のほうを選ぶんですね。辛抱強く。
上図で秒読みだったとします。詰みは見えない。自玉は詰むのか、それも読みきれない。さて、どうするか?

普通の人は、「エーィ、詰まされたらしゃーない!」と詰めろをかけてゲタをあずけるでしょう。
勝負強い人は、シブとく詰まされないようにする。5五にいる相手の銀が自玉にとり脅威であることを、読みきれていなくても感覚的に察知しないといけないですね。

上図から、「これでどやっ!」と、▲5二飛△3三玉▲4五桂△2二玉▲4三金と進めたとします。「これで受からんやろ。△4一銀と受けても、▲3二金△同銀▲3一銀△同玉▲4二金から詰み」

さあ、その局面。先後入れ替えて、下図です。詰むでしょうか?

上級から有段者のみなさん、どう?(笑)。読みきれなくてかまいません。秒読みで、「詰むとしたら、ここからはいるしかない」というところに手がいくか。直感と正解の初手が一致するかどうかです。

仮想局面





▲6一竜と、まずは金の入手からですね。

4二の地点でバラして桂を打つしかないですが、いきなり▲4二角とか銀とか打っちゃうと、△2二玉で王手が続かなくなる。▲3四桂でもきまらない。
「ナナメ駒だけじゃ、続かん」・・・というのが、直感で判断できるかどうか。で、まずは金をとって王手。

▲6一竜以下、△同角▲4二金△同金▲同玉△5四桂で下図。

参考図


△5二玉には▲4一角、△5三玉には▲6四銀。5五の銀が要となって、ガッチリ仕留めることができます。


戻ってイチバン上の図を再び見てみる。

ここで強い人は、具体的に読みきれていないとしても、相手に手を渡した瞬間、6八の地点でバラされて上に逃げていったときに5五の銀が立ちはだかるストーリーがバーッと瞬時にイメージできるわけですね。で、負けないようにするために▲5五金とこの銀をハズすという選択ができるということになります。

いやぁしかし、前日の朝10時に始まった大会で日付をまたいでもうすぐ明け方という時間帯。準決勝なので勝てばもう一局あるんでしょうか。何よりもまず、将棋の体力がものスゴイです。