29日までお待ちくださいと申し上げましたが、少し時間がとれましたので書きました。昨日アップした以下の記事について:
ドニプロペトロウシク州の診療所へのロシア軍による砲撃について

改めて、多くの方にお読みいただきまして、どうもありがとうございます。「軍事病院として使われていれば、合法的かつ正当な攻撃対象とのこと」と私自身は記事紹介の形でコメントを添えましたが、見解を支持しているも同然であると見られたでしょうし、本件は重要な課題ですから、掘り下げてみたいと思います。

引用した「リバール」というサイトがどのような根拠でこの主張をしているか、100%正確にお伝えはできません。しかし、ずっと紛争の流れとっこのサイトの論調を見てきた者として、「このようなことではないだろうか」という私見を述べさせていただきます。

まず2つの論点を挙げ、次に関連する国際法の条文を挙げ、最後に1つの結論としてまとめます。

1つ目。単純に「兵員の集積場/寄宿舎」として使われているような場所なら、軍事攻撃目標となり得ます。しかし「負傷者が集められ治療を受けている場所」は攻撃してはならないという論点ですが、その中間、「軍人が集まっているが何のためなのか明確でない」場合にはどうなのか?という状況が存在します。そして、明確化するのはどちらの責務なのか。

2つ目。恐らく大半の方が、赤十字病院のような施設にロシアがミサイルを飛ばしている絵を想像して驚愕されたのでしょうが、そうではありません。敵の軍事病院についても、例えばキエフの軍事病院にザルジニーが入院している情報がありますが、ロシアは攻撃しません。民間病院にせよ、軍事病院にせよ、しっかりと何をしている場所か看板が上がっている施設については、隣接の軍事施設への攻撃に巻き込まれたなら不幸なことですが、その病院が主目標であった事例は私が知る限りはありません。

次に、関連の国際法。2つ、挙げます。

ジュネーヴ条約第19条(保護)
【紛争当事国は、いかなる場合にも、衛生機関の固定施設及び移動衛生部隊を攻撃してはならず、常にこれを尊重し、且つ、保護しなければならない。それらの固定施設及び移動衛生部隊が敵国の権力内に陥った場合には、それらの施設及び部隊の要員は、抑留国がそれらの施設及び部隊の中にある傷者及び病者に必要な看護を自ら確保しない限り、自由にその任務を行うことができる。
責任のある当局は、前記の施設及び部隊が、できる限り、軍事目標に対する攻撃によってその安全を危くされることのないような位置に置かれることを確保しなければならない。

ハーグ陸戦条約第27条
【攻囲及び砲撃を行うにあたっては、宗教、技芸、学術、慈善の用途に使用されている建物、歴史上の記念建造物、病院、傷病者の収容所は、同時に軍事目的に使用されていない限り、これに対しなるべく損害を与えない為の必要な一切の手段を取らなければならないものとする。攻囲された側は識別し易い徽章をもって建物または収容所を表示する義務を負う。前述の徽章は予めこれを攻囲者に通告すること。

ジュネーヴ条約もハーグ陸戦条約も、衛生施設あるいは病院・傷病者の収容所を攻撃してはならないとうたっています。そして、その安全を確保すること、収容所を表示し相手に通告することは、「責任ある当局」「攻囲された側」が行う必要があります。

ウクライナ紛争の問題点は、ウクライナ政府が、負傷兵を収容している場所を中々明らかにしないことにあります。死傷者が明らかになることにより国内/国際世論に与える影響や遺族補償などの事情が出てくるためと見られますが、反面、上記条約の義務を怠ることになっています。

最後に、結論です。民間病院あるいは民間施設にウクライナ兵が続々と集まっていることは確かで多くが怪我をしているのかもしれないが公表/表示がない場合、ロシア軍は攻撃対象と見なすのだろうと私は理解しています。

以上ですが、若干補足させていただきます。

記事を紹介した「リバール」の記者は昨年9月に、負傷した大量のウクライナ兵が雪崩れ込んでいるらしい二コラエフの民間病院をロシア軍が攻撃した際に、「半年かけてようやくロシア軍が決断した」と前向きなコメントをアップしました。ウクライナ軍による純粋なる民間施設への攻撃が後を絶たないことから、「なぜ我々だけが一方的に耐えなければならないのだ」という不満が、軍事記者たちの間で募っていた背景がありました。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございます。同意はできなくとも、ロシア視点の情報や見解を入手することにプラスの意味を感じられる方は、引き続きどうぞよろしくお願いします。

赤十字