ドキュメンタリー「Kill Chain」の好感が持てる点は、政局には踏み込んでいない点。選挙システムや集計機械への疑問を、それで選ばれた政治家の資格への疑問につなげることはしません。これにより制作意図が「機械を含む選挙制度への警鐘」そのものであることが、明確化されています。

2015年前後から、ロシアによる、周辺諸国や米国含むNATO各国の選挙システムへのハッキング活動が相当なものになっていたことが、フィルムの中で強調されます。2017年フランス大統領選ではマクロン陣営がロシアからの激しいサイバーアタックを受け、フランスのNATOからの離脱を唱える極右ル・ペン女史に有利に働く工作がなされたことが発覚。また2014ウクライナ大統領選では、実際には1%しか獲得していない極右団体のヤロシ氏が37%で一時トップに立ち、ロシアのテレビ局がそれを放送しています(選挙システムへのウィルス侵入が発覚し修正された)。

そして、全米の選挙関係者に衝撃を与える事件が起きました。2017年6月に、ジョージア州でリアリティ・ウィナーという25歳の女性が逮捕された。NSA(国家安全保障局)の下請けで働いていた彼女が、2016大統領選におけるロシアの選挙システム業者への激しいハッキングに関する資料をマスコミにリークした罪。5年3か月の刑を受けますが、これにより米国の選挙システムの脆弱性が明らかになります。元選挙監督員のサンチョ氏(前の投稿参照)は、彼女がヒロインだと言います。この事件がなければ、誰も知らなかったのですから。

以下はこのフィルムでは触れられていませんが、個人的に調べてみて判ったこと。
この事件の別の側面。国家機密の漏洩は厳しく罰せられるべきですが、いっぽうで政府が都合の悪い情報を隠蔽しようとする場合に正義を行うことが難しくなります。

ジャーナリズムに制限をかけ情報を隠蔽しようとするトランプ大統領に、マスコミから厳しい目が向けられたのでした。

参考資料:How the Reality Winner case is a 'cautionary tale' for journalists

(シリーズ)
「Kill Chain」 紙ベース投票制度への回帰の経緯
「Kill Chain(目標の破壊)」シドニー・パウエル弁護士シェア動画 選挙機械不正の歴史

リアリティ・ウィナー