渡辺竜王への風当たりがものすごいことになっていて、除名を求める声すらあります。しかし、ただ漠然と悪い奴だから処分だと言うことはできないのであって、
「疑念がある棋士と指す つもりはない。タイトルを剥奪 されても構わない」
この言葉が社会のどういったルールに抵触する可能性があるか、考えてみます。

まずは所属団体である日本将棋連盟の定款を見てみましょう。第9条に、次のような規定があります。

第9条 会員が次のいずれかに該当するに至ったときは、総会の決議によって当該会員を除名することができる。
(1)本連盟の名誉を棄損し、または本連盟の目的に反する行為をしたとき
(2)本連盟に対して不正の行為をしたとき
(3)会員の資格を利用して不正の行為をしたとき
(4)禁固以上の刑に処せられたとき
(5)その他除名すべき正当な事由があるとき

竜王というタイトルを持っている人がその防衛戦に出ないという事態は、竜王戦という棋戦の存続を危うくしかねません。多くの棋士の生活が成り立たなくなってしまう事態をまねきますので、もし正当な理由なく出ないぞという態度をとったなら、上記(1)(2)に該当するでしょう。

しかし竜王としては、「将棋界がきれいであるために私はそれくらいの気持ちでいますという意味であって、本気で威圧したわけではない。しっかり調査してくださいとお願いしただけ」という立場をとるでしょう。

常務会は「威圧された」、竜王は「そうではない」。見解が対立し合意できない場合は、裁判ということになります。連盟が除名を決定した後に竜王が不服として訴えるか、処分に先立ち竜王の犯罪性を確定させるために連盟が竜王を訴えるか、2つのパターンがあるでしょう。

裁判となった場合、では社会のどのルールに抵触するかというと、刑法第233・234条に次の条文があります。

(信用毀損及び業務妨害)
第233条  虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)
第234条  威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

上記第234条「威力業務妨害罪」に該当するということで、連盟が渡辺竜王を刑事告発することになるのではないでしょうか。「疑わしい棋士を排除しないなら日本将棋連盟を道連れに竜王戦をつぶすぞ」という意味合いで迫ったのであれば。

故意ではなくとも常務会メンバーにそのような印象を与えてしまったのであれば、懲役刑までは出ないでしょうが、有罪で50万円以下の罰金ということは想定されます。そして軽い罪であったとしても有罪が確定すれば、連盟定款に基づいて除名することの理論づけにもなります。


ルールに照らし合わせれば上記のような形ではないかと思うのですが、ただ、常務会の方々が渡辺竜王を相手にこのような裁判をしている風景は想像できません。「極論をするとこんなことになってしまう」というのを念頭に、関係者(読売・連盟・渡辺竜王・三浦九段)で話し合い、処分と損害賠償を取り決め示談ということになるのではないでしょうか。もちろん「連盟」は正会員であるすべての棋士を含みます。