本日発売の週刊文春、購入して読みました。ソフト指し疑惑の件。

まず、みなさん目にしているであろう電車の中吊り広告が、羽生善治三冠も「限りなく黒に近い灰色」と怪しんだような印象を与えますが、間違いです。昨日奥様のツイッターで発信されており、「灰色に近い」とコメントしたのは、「白か黒かはわからない」という意味合いのようです。

さて、記事について。これだけのものが出てもしそれが、連盟の意に反するものであれば即座に遺憾の意が発表されるはずですが、夜になっても何もありませんので、概ね異論なしということでしょう。
渡辺竜王の独占インタビューという形でもあり、竜王戦期間中に竜王にマイナスイメージになることは出来ないという事情もあると思います。

記事の内容について整理。

まずは7月26日の対局で久保九段が疑惑を持ったとあります。その後9月26日の棋士会で「電子機器の持ち込み禁止」を提案するのですが、久保九段としては「望んでいることは気持ちよく将棋を指せる環境作りです」とのことで、三浦九段を告発し処分を求めるつもりはなかったことがわかります。

そして10月3日の対局で疑念を抱き、その後の調査で確信をもった渡辺竜王が島理事に依頼し、7日に渡辺竜王、佐藤天彦名人、羽生三冠、佐藤康光九段(棋士会長)、千田翔太五段、谷川会長が島理事宅に集まり、7名で会合が行われた。
渡辺竜王による三浦九段の離席メモやソフトの読み筋の解説が進むにつれ雰囲気は深刻になっていったとのことですが、注目すべきは、集められたメンバーは「最初はみな中立的な空気というか、半信半疑だった」という点。

つまり、当ブログ10月14日記事で危惧したような、内部告発した棋士たちの声が竜王戦期間中に週刊誌等を通じ漏れ出すという懸念は、さほどなかった。
文春が本件について取材を進めており大手新聞社も疑惑を把握していたとのことですが、竜王戦のさ中にスキャンダラスな暴露記事を大手新聞社はやらないだろうし、文春が出したとしても、棋士の協力を得たリアルで迫力のある記事にはならなかっただろう。

記事の核心部分、渡辺竜王の言葉。
「 竜王戦七番勝負が始まってから疑惑が公になれば、シリーズは中断される可能性が高いと考えました。それだけでなく、タイトル戦を開催する各新聞社が”不正”を理由にスポンサー料の引き下げや、タイトル戦の中止を決めたら連盟自体の存在さえも危うくなると思ったのです。そんななかで最悪のシナリオは『疑惑を知りながら隠していたという事が発覚する事だ』と判断しました」

敢えて言います。

三浦九段にヒアリングを行ったところまではいいとして、疑惑を知りながら隠していたのも調査が遅れたのも三浦九段の責任ではない。たとえ99.9%クロだったとしても。そして、立証責任は連盟の側にある。「合理的な説明がなかった」と三浦九段に証明を押し付けるのは、社会的なルールに照らせば間違い。本人が否定している以上、法的措置により罪を確定させるまでは推定無罪であり、三浦九段から休場を申し出たのでなければ、10月12日の段階では三浦九段が竜王戦出場権を奪われる理由はない。

理由がないことを、やってしまった。社会的なルールに反しても、「三浦九段はリスクが高いので除く」だった。
しかし日本将棋連盟は、三浦九段の不正を証明できなければ、いっそう信頼を失いかねません。「あの時点ではやむを得なかった」は通らないでしょう。依然として、大きなリスクを背負っている。

「最悪のシナリオは『疑惑を知りながら隠していたという事が発覚する事だ』」というのも変(そのまま竜王の言葉ではないかもしれませんが)。疑惑の段階では公表できません。「疑惑のある棋士をきちんと調査することを怠っていたことが発覚するのを恐れた」というなら理解できますます。それは、体制の不備の問題。

そして竜王戦に影響が出るほど直前に、突然に体制の不備を個人の力で補い、資料をそろえ不正が濃厚であると問題提起したのは、渡辺明竜王でした。
その行為自体は、間違いではないでしょう。問題はその後。

今更どうにもなりませんが、
1.竜王戦は三浦九段を挑戦者として実施し
2.期間中に週刊誌から飛ばし記事が出ても毅然と対応し
3.法的措置に持ち込むかは別途検討
社会的ルールに沿えば、これが連盟のとるべき対応でした。そして、お家の事情として「スポンサーさんに迷惑はかけられない」と判断するのであれば、どんなに疑わしくとも3の法的措置はとらずに「調査を尽くしたがソフト指しの事実は認められなかった」と結論付ける。竜王戦と棋界を守るために、今回はやむを得ない。今後、体制整備する。

もうひとつ。スマホ提出拒否は、個人的には理解します。お付き合いのある方々の電話番号や個人情報も含まれているでしょう。それを同じ棋士仲間や連盟職員にさらすことになる。やましいところがなかったとしても、法的措置により裁判所に提出を求められるといった状況になるまでは出さないというのは、不自然なことではありません。
その意味からも、連盟が棋士を相手に裁判するのでなければ、ソフト指しの証明は困難。そこまではしないということで、やってきた。


日本将棋連盟が三浦九段の不正を証明しなければ現在行われている竜王戦の正当性が疑わしという、とても悲しい、悲しい事態です。