三回戦で中山中に初白星がついた。リッシとアスカが勝ち、2−1での勝利。3人で喜びを分かち合った。これがチームで勝つってことなんだ。気持ちいい。病みつきになりそう。

これに勢いづいた中山中は、午後の対局でも、もう1試合勝ちをおさめた。スバルの相手が昼の時間に体調不良を訴えたらしく、不戦勝になったのが大きかった。館内は一応空調が効いており、何もしなければ汗をかくほどにはならない。しかし、将棋で脳が高速回転し体が熱を持てば、気分が悪くなるのも無理はない。
「暑さと緊張の中で5試合やりきる体力も重要要素だ。スバルくんはその点で相手を上回った。立派に戦いに勝ったと思っていい」
源先生の言葉に、スバルもまんざら悪い気はしなかった。将棋でも勝てるようになりたいと思う。

2勝3敗、それが市川市立中山中学校の公式戦デビューの成績だった。
雲の上のことと感じはするが、優勝したのはやはりS学園だった。市川の騎惘爐盻猴ゾ,農虱娶代表に選ばれたという。来月に行われる東日本大会へ行くらしい。

「やったじゃないか。初めての大会で2つも勝つなんて、なかなか出来ないぞ」
心地よい疲労感と充実感。3人の顔に笑みが浮かぶ。
「将棋部、出来るといいな。人数は5人そろいそうか?」
「それが・・・」
推進役のリッシが答える。
「もう一人同級生が居て4人はそろったんですけど、他部との兼部が認められないと言われてしまって、あと一人を探すのがタイヘンなんです」
「兼部はダメなのか。そりゃキツいな」
「唯一、茶道部と華道部だけは兼部が認められているんですけど」
「そこに将棋部も入れてもらえばいい」
「それもお願いしたんですが、ジャンルが違うからダメって言われてしまって・・・」
「ジャンルは違わない」
「え?」
「茶道も華道も将棋も、江戸幕府が保護し家元の制度で続いてきた日本の伝統文化だ。茶道と華道が同じジャンルだというのなら、将棋もそうだ」
「そっ、それ、もらっていいですか?」
「もらうも何も、事実だ」
それが認められるなら、茶道部の生徒に頼めるあてがある。俄然、元気が出てきた。

他校の友だちも、出来た。午前中に対局した千葉市の中学の生徒で、同じように私服で来ていた。浮いた者、心細い者同士で引かれ合ったのかもしれない。彼らの学校にも将棋部がなく、残念な思いで日々を過ごしているという。それも同じだ。大会の名残を惜しむように、休憩所のソファーに座り持ってきていたマグネット盤で一緒に将棋を指した。

自分たちの生きる場所を、見つけた。ここで、戦ってゆきたい。技に磨きをかけ、もっと勝てるようになりたい。
しかし、こんなにすごい中学将棋の世界があるなんて、身の周りの人たちは誰も知らないのだ。部活動で将棋の大会に出たいのだと説明しても、ピンと来ないに違いない。母さんも、父さんも、そして学校の先生たちも。家に帰ればきっと、『千と千尋の神隠し』のラストシーンのように両親はそっけなく、自分たちも今日のことを語って聞かせようがないに違いない。

4階の窓の外を見た。空に浮かぶように白いレールが真横に走っていた。目的の地へきっと行けるはずだ。不思議と不安はなかった。

(ひとまず、完)  第(6)話へ戻る


※この物語はフィクションであり、実在の人物とはあまり関係ありません。