15日(日)NHKで、羽生善治名人がナビゲーターを勤め、来るべき人工知能の時代を私たちはどのように迎えたらよいのかを社会に問う、たいへん意味深い番組が放送されました。

見逃した方のため、整理しないままで申し訳ないのですが、番組ナレーションや登場人物たちが何を言ったかを抜き出し箇条書きにしました。どのような内容であったのか、参考になればと思います。

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人口知能に心を持たせる試みが始まっている。人間も機械も、突き詰めれば物質にすぎない。機械に心が持てない理由は、ない。

「脳の働きが解明されたら、それを人工知能として落とし込むことは可能」(脳科学者)

「線引きをどうやってすればいいのか、全然わからない。何をもって知性とするとか、何をもって生命とするとか、何をもって答えとするとか・・・」(羽生)

ディープラーニングとは、人間に頼らず、コンピューターが自ら学んで進化する革新的な人工知能。グーグルはこの技術を使って、囲碁の人工知能AlphaGo(アルファ碁)を開発した。

「私のほうが有利に思えたときでも、アルファ碁は私が経験したこともないようなすばらしい手を次々と繰り出してきました」(イ・セドル)

「私の人工知能は、人間の脳の働きに着想を得た新しいものです。脳の仕組みは、ひとつの物理的なシステムです。だとすれば、コンピューターでもまねできるはずです。『ディープラーニング』は、革命的な技術です。それを可能にするほどに、プログラムの技術が進歩してきたと言えるでしょう」(グーグルディープマインド社CEO、デミス・ハサビス)

囲碁の場合、テレビゲームのように単純にはいかない。無限ともいえる選択肢から、短時間で最善の手を選ばなければならない。そこでハサビスが考えたのは、人間のような直感を人工知能に産み付けさせることだった。

(対局中に羽生先生の目線がどこにあるかを示す実験機のシーン)
直感、それはまさに羽生善治を将棋の天才たらしめる、特殊な能力である。次の一手を決めるまで、羽生が盤面のどこを見ているか。赤い印で示されている。アマチュアと比べると、大きな違いが明らかになった。アマチュアの場合、盤面をくまなく見ながら次の手を思案する。一方の羽生は、最初は盤面全体を見渡すが、その後、限られた部分に絞ってすぐに次の手を思いついている。

「ほとんどの手は考えていない。将棋が強くなるということは、たくさんの手を考えなくて済むようになること。たくさんの手を読めるから強くなるわけではない」(羽生)

直感の力は、多くの経験を積むからこを育つ。そこでまずアルファ碁に、過去に行われたおよそ15万局分の盤面を画像として与えた。するとアルファ碁は、さまざまな石の並び方を徹底比較。各局面で、勝ちに繋がる展開に共通して現れる石の並び方を自ら見つけ出した。それに照らして、次の一手の選択肢を絞り込みその先の展開を予測する。人間ならではの直観力がついに、人工知能に組み込まれた。

ハサビスは、それだけでは満足しなかった。次に目指したのは、人間を超える創造性である。そのために行ったのが、アルファ碁で対局を繰り返すことだった。その数、実に3000万局。人間が毎日10局打ち続けても8200年かかる。囲碁の歴史で人間がまだ考えついていない未知の戦法を、アルファ碁に発見させようとした。イ・セドルが戦っていたのは、囲碁という小宇宙の全容を知る、いわば神のような存在だったのかもしれない。

ハサビスが目指しているのは、人類が直面する様々な難問に答えを出す、究極の人口知能。地球の気候変動や環境問題、さらに生命はどのように誕生し人類は生まれたのか、なぜ宇宙は誕生したのか、究極の人口知能が、こうした深淵な問いに答えを見出す未来を思い描いている。

赤道直下の都市、シンガポール。都市の交通システムを制御しているのは、人工知能。国土が狭く深刻だった渋滞の解消に大きな効果を上げている。人間の行動にも目を光らせている。国内最大の銀行では、職員の不正を未然に防ぐ人工知能を導入した。収賄など不正な行為を画策しそうな職員をあぶりだす。ひとりひとりの取引の仕方、外部とのチャットの内容、メールの文面などを監視している。さらに政府は、今後国家の運営を次々と人工知能にゆだねようとしている。そのために必要なのが、国民ひとりひとりの行動データ。交通機関の乗車履歴、スマートフォンからは、個人の位置情報を一秒ごとに集めている。人間にストレスを与えず、かつ省エネも考えた交通ダイヤを人口知能が指示する。国営住宅にはセンサーが設置された。常日頃から住民の生活パターンを把握する人口知能は、異変があればすぐに気がつき、その緊急度まで判断、家族や救急隊に知らせる。エネルギー供給、交通や医療の整備、犯罪の防止、人工知能に管理させることによって、社会は飛躍的に効率化されるという。
「私たちが目指しているのは、人工知能を研究室から外に出し、国全体を実験室として生活を向上させることです。人工知能に任せるほうが、より効率的で安全になってゆくでしょう。今まさに大変革のときなのです」(ビビアン・バラクリシュナン スマート国家計画担当大臣)

すでに人間の理解を超えつつある人工知能。その暴走が人類の脅威となることはないのか?
オックスフォード大学、人類未来研究所。去年、人類を脅かす12のリスクを報告書にまとめた。気候変動や核戦争に並び、新たなリスクとして人工知能の暴走を挙げた。
「人工知能の本当の恐ろしさは、人間を敵視することではなく、人間に関心がないことです。それは大きな脅威です。人工知能の中には、邪悪で私たちが望まないものもできるはずです。今のうちに、人工知能を管理する方法を考えておくべきです」(オックスフォード大学人類未来研究所 アンダース・サンドバーグ)

「もし100億台くらいのロボットがいる世界になって、それがもし機械的に生産性の結果だけを追い求めるロボットだらけになったときに、逆に怖いと思う。人間よりも賢くなってしまうかもしれない彼らが、人間と親しく寄り添えるような心を持ってほしいと思っている」(孫正義 ソフトバンク社長)

「将棋の世界でも、過去の常識が人工知能によって否定されています。でも、それは終わりではなく新たな時代の始まりではないか、今回の取材で強く感じました。人工知能は世の中を便利にするだけでなく、人間の可能性をも広げるために使えるはずです。しかし、忘れてはいけないことがあります。驚異的な能力を持つ人工知能ですが、それ自体に倫理観はありません。使い方次第で、天使にも悪魔にもなります。どうあれ、人工知能の進化はもう止まらないでしょう。私たちは、社会で人工知能をどのように使っていくのか、考えるべきときのように思えます」(羽生)