長い休みに入りますので、特に昨年から今年にかけて新しく子供さんが将棋を始められた保護者の方々にお話ししておきたいことがあります。

過去幾度となく繰り返されてきた悲劇・・・ さて、

大会などで子供さんに成果があった方については、
「ウチの子って、ひょっとして才能あるんじゃないかしら」
とか、そうでなかった場合は
「ウチも負けてられないワ」
とか、思われたのではないでしょうか。
そこまではゆかなくとも、子供が熱心なので出来るだけやらせてあげたいという気持ちを持っていただいた方は多いことでしょう。

で、強い子を真似て道場通いを始めるワケです。普段でも毎週末、長い休みには毎日のように通っているというような話を聞いて。
「自分の子もそうすれば強くなるにちがいない」と、思ってしまうワケです。

ある程度までは、そうです。初級レベルの子は、王手放置とかうっかり飛車をタダでとられたりとか、大失敗をして負けていることが多い。たくさん指して駒のききが見えるようになり、そういうことが減るだけでも、勝率は上がります。

ところが、ある時点からなかなか勝てなくなる。どうやっても級が上がらない。そんなときに、側で調子よく勝っている子を見たら・・・
「オレの使っている戦法よりヤツの戦法のほうがつぇーんじゃね?」
と、思ってしまうのが人情ってもんです。

見よう見まねで、ろくに勉強もせずにそれを真似し始めます。序盤から落とし穴にハマり、ボロボロになる。するとまた別の強い子を見て、
「いゃ、あの戦法のほうがオイシそうだ」
と、中途半端に投げ出しては色々と手をつけて痛い目にあいます。

結果、休み明けに教室に戻ってきたときには将棋がズタズタに壊れているという子を、何人も見てきました。
「参ったなぁ、せっかくキレイな形をしていたのになぁ」

考えようによっては、それも良いことです。
「最初のうちは負けてもよいから色々なことをどんどん試してみる。勝率は上がらなくてよいから、一定期間はそういった時期を過ごさせよう」
と、敢えて見守ってくださるなら大いにけっこうです。

ところが・・・けっこう保護者のみなさん、内容には目をむけずにただ、苛立っているんですよねぇ・・・

羽生善治名人がインタビューで
「子供の時には道場でとにかくたくさん指した。指しているうちに、どういう手がよくてどういう手が悪いか、感覚的にわかってくる」
というようなことを話されていて、よく使われるエピソードになっています。

保護者の方々が羽生先生のありがたいお言葉にウチの子もと反応してしまうお気持ちはわかるのですが、敢えて言わせていただきますと、
「誰が羽生さんやねん!」
大多数の子は、同じマチガイをただ繰り返しているだけです。ゲーセンに行っているのと変わりありません。

将棋を指す機会をたくさんもっていただくことは、とてもよいことです。ただし、やればやるだけ正比例的に強くなるはずという先入観を持たないよう、どうかお気をつけください。

停滞期に入ったら、本人が好きで通いたいのならよいのですが、そうでない場合はやらせすぎに注意してください。たくさんやっているのになかなか級があがらない、大会で勝てないという状況が続くと、気持ちが萎えてきます。

感性が熟してくる期間には、個人差があります。論理的思考力が子供さんの中でグンと伸びる成長期があり、その時にはほんとうに、ろくに指してもいないのに将棋が見違えるようにしっかりしてきます。

身長と同じで、
「食わしているのにオマエ、小さいじゃないか」
なんて言わないで。そして、他の子と比較しないで。その子なりにちゃんと伸びますので、暖かく見守ってください。