「先生、いよいよ始まりますね、電王戦」
「・・・ええ、そうですね」
今年はじめの、スーさんと私の短い会話。私のそうですねは、歯切れが悪い。正直、目をそむけようとしていたと思う。

第2回電王戦は、現役プロ棋士5人がコンピューターと対戦するという、未だかつてない企画であった。そして、どうやらコンピューターソフトは急速に進化を遂げてきているらしい。
「機械に棋士の脳の働きをさせようとするとバカでかいものになってしまい、とても現実的ではない。それほどプロ棋士はすごい」・・・私の少年時代に語られたことだ。誇りをもって受け止めていた。それが崩れ落ちるのかもしれないという、何ともいえない違和感。

しかし、新しく将棋の世界に興味を持ち始めた人々にとっては心躍るイベントであり、普段将棋を指さない人までが知っている。昭和将棋世代にとっては、どうにも馴染めない空気だ。

実際、壮絶な戦いの末、結果は3勝1敗1持将棋でコンピューターが勝利した。

マイセン「原さん、コンピューターが、プロに勝ったんですってね」
「・・・ええ、そうですね」
マイセンのマスターと私の短い会話。相変わらず、歯切れが悪い。自分の中から、遠ざけようとしていたかもしれない。


私の意識が変わり始めたのは、少し経ってからのこと。

電王戦の演出者によるものなのか、あるいは取材者の多くが心打たれる情景であったからなのか。コンピューターソフトの開発者たちのドラマが、ヒューマンタッチに描かれるようになった。棋士の世界に負けず劣らない、人間の葛藤がそこにはある。

第3回電王戦が、来年3月から4月にかけて開催される。
そして、その前哨戦になるであろう、船江恒平五段のツツカナに対するリベンジマッチが、来る12月31日に実施される。

ニコ動の紹介クリップが素晴らしい。制作者に拍手を送りたい。5分のドキュメンタリーに、船江五段とツツカナ開発者・一丸貴則さんのストーリーが凝縮されている。




人間もコンピューターもないのかもしれない、と、思う。
将棋を探求することにおいては。
嘗て「島研」が旧世代から違和感を持たれつつも将棋を発展させていったその役割を、今、電王戦が果たしつつあるのかもしれない。

人間ならば読まないであろう選択肢の中に、最善手がある。それを拾うことが出来るのが、コンピューターの強みであるという。
ならば、なぜ人間は直感的にそういった手を捨ててしまうのか。人間はそれを拾うことが出来ないのか? もし出来るのならば、そこには実に広々とした将棋の荒野があるはずだ。目をそむけていいはずがない。


違和感が、完全にぬぐい去られたわけではない。
コンピューターが進化し続けたら、どうなってしまうのだろう。
「ターミネーター」で、「意志」を持ち、人間に反旗を翻すコンピューターは、もとはチェスのソフトだった。SFの世界の話であるが・・・現在の状況は、一昔前の常識からすれば十分にSFの世界。

気分はサラ・コナー(笑)。
未来のジョン・コナーたちと、充実した時を過ごしてゆきたいと思います。みなさん、機械といい関係を築きながら、将棋をより味わい深いものにしていってくださいね。


マイセンのオムライス。お味噌汁とセットで900円。ボリュームあります。

オムライス